「父のいる風景」

・鬼

・理解不能

・初めまして

・嫌いやけど、大切
「鬼」

昔、私がまだいたいけな小学校3年生くらいだった頃。

その日は日曜で、朝から父がテレビの前に陣取っていた。

私はトイレに行きたくなり、父をまたごうとした。
その時、「ぐりっ」と父の足首を踏んでしまったのだ。

「だ〜〜っ!!痛いんじゃ、アホかぁ!!なに踏んでるね〜ん!!アホかぁ!!」

叫ぶ父。
私はその父の剣幕にびっくりして、思わず涙ぐんでしまった。

わざとじゃないのに。
この人は鬼だ、と思った。
「理解不能」

父は、自分が面倒くさいと、娘や妻を、鉄人にしたてあげる。

夜、帰りが遅くなった娘や妻を、ちょこっと駅まで迎えに行く。

車で。

それが、そんなに面倒くさいことなのだろうか。
心配なんて、しないのだろうか。

たしかに、私はそんな時間まで遊んできたのだから、もしもどんなことになっても、自分に責任があるのかもしれない。
しかし、家の用事で出掛けた妻までをも、父は都合が悪いと、鉄人にしたてるのだ。

「何かあったら、どうするん?!」
責める私達に返ってくる反応は、「フッ……(鼻息)」

父の心の声が聞こえる。
『何を大げさな……』
「初めまして」

父は、自分のことを、「俺」と言う。

決して、「お父さん」とは言わない。
母は、「お母さん」と言うのに。私には。
(最近は「あたし」と言う時が多いが)

「お父さんな」
「お父さんがやったろ」
「お父さんに言うてみ」

「俺な」
「俺がすんのか」
「俺に言うてもなぁ」

たぶん、「自分はこいつの父親だ」という自覚があまりないんじゃないかと思う。

そんな父が、初めて自分のことを「お父さん」と言うのを聞いたのは、2年と少し前。
私が車の免許を取って、父の車で練習をさせてもらっていた時のこと。

「あ〜、お父さんやったら、そこで右に切って(ハンドルを)」

「……!!(お父さんやて!!)……あ、う、うん(びっくりした!!)」

たぶん、初めて娘になにかを教えることで、自分が「父親という立場」なんだということに、気付いたんだろう。

お父さん、はじめまして。私が娘よ。
「嫌いやけど、大切」

ある日、父が酒を飲みながら、母に言うのだと言う。

「そうか、みーがそんなこと言うてたんか」

(私が父の老後、「淋しい思いさせたら、私は一生自分を許されへん」といった言葉を受けて)
「そうやで。みーも考えてるんやわ」
母が言うと、父は涙をぼろぼろこぼしながら、
「俺は、みーに嫌われてると思ってた」

後日、母からそのことを聞き、ちょっとほろっとしていたら、
「みーは、お父さんのこと、大嫌いやけど、大切に思ってるよ」
と、フォローを入れといてくれたらしい。

母よ、フォローか、それは。
「ちびまるこちゃん」の父「ヒロシ」を見ると、いつもなんだかミー父を思い出す。
自分勝手で、子供達と同レベルで、意地悪で面倒くさがり。
でもやっぱり、憎めない。

ま、父だからね。



モドル モクジ